住宅ローンの一括返済が最善とは限らない
退職金で住宅ローンを一括返済するという常識
サラリーマンが会社を退職するとき、退職金で住宅ローンを一括返済して借金ゼロでリタイア生活を送ることが最善とされています。
借金ゼロだと楽ですし、精神的にもリラックスできます。
何よりも、住宅ローンは金利分を銀行に支払っているわけですから、余計な出費がなくなるという意味では一括返済が常識化しているのは分からないではありません。
しかし、それは住宅ローン金利が4%や5%時代の感覚なのではないかと思うのです。
いまは日銀の異次元金融緩和で、住宅ローン金利は1%を割り込んでいます。
私も住宅ローンを借り換えたおかげで、今後、金利が上昇しても、65歳過ぎまで年率0.9%の固定金利でヘッジされています。
この低金利を活かすことができないのか、リタイアを前に考え続けています。
考えれば考える程、この一括返済か否かというテーマは深いテーマであることに気が付きました。
超低金利時代の住宅ローンは年率1%以下
住宅ローンは、いわば借金返済の猶予制度です。
3000万円借りて翌年に全額返せと言われても無理なので、それを30年間、100万円ずつ返済する方式にすれば、多くの人が家を持てるという考え方で始まった制度です。
その返済猶予の間、銀行は残債に応じた金利を受け取り、収益化することで、貸し手と借り手がWIN-WINの関係になるわけです。
かつては銀行にとって、住宅ローンは法人貸しと違って、手間がかかり利が薄いので、あまり熱心にセールスされる分野ではありませんでした。
どちらかというと「お金を貸してあげる」という上から目線を感じたものでした。
しかし、バブルが崩壊し、法人の資金需要が細り、融資環境が変化しました。
住宅ローンは銀行にとって物件を担保に取れるのでリスクも低いものです。
法人がお金を借りてくれなくなると、経営状態が見通せない中小零細企業に融資するよりも、個人ローンや住宅ローンに力を入れ始めます。
最近では、住宅ローンの新規融資だけでなく、他行のお客さんにも優遇金利を提示して借り換え争奪戦を繰り広げています。
日銀の超低金利政策も加わって、かつて3〜4%というローン金利が当たり前だった時代から、現在は1%を下回って、自動車ローンよりも低利のローンになっているわけです。
住宅ローンは大きな借金か生命保険か
手元資金を維持するべきかローンを一括返済するべきか
超低金利の固定型ローンを借りている人のなかには、手元資金を減らしてでも一括返済するべきなのか、それとも引き続き、毎月返済して低金利の恩恵を受けるべきなのか、悩んでいるリタイア組は多いと思います。
では、住宅ローンを返済しないメリットを考えてみたいと思います。
- 手元資金が減らず、いざという時でもお金に困らない
- 死亡時に住宅ローンは返済免除となる
まず、一括返済するということは、手元資金が減るということです。
手元の資金が減ることによって、事業をやりたいとか、まとまったお金が必要になったときに、今度は高金利のお金を借りなければいけなくなるかもしれません。
また、手元資金が少ないことで生活に困って、いざ、家を売るときに、不動産業者や買い手に足元を見られ、買い叩かれる可能性もあります。
バブル期に不動産王という人たちがいました。
物件価格から借金を差し引いた実質的な資産はさほどなくても、見かけの資産総額を誇示してお金持ちとしてもてはやされましたが、そういう人たちは数百億、数千億円という世界です。
しかし、住宅ローンの残債はたかだか2〜3000万円という世界ですから、金利1%としても、年間のコストは20〜30万円に過ぎません。
単純に考えると、退職時に残債3000万円の人が、その後も毎年30万円の金利を支払うのか否かという問題なのです。
そう考えると、さほど大げさに心配するような問題でもないのです。
住宅ローンは生命保険代わりかもしれない
住宅ローンを組む時に、ほとんどの人は団体信用生命保険(団信)という生命保険に加入しています。
団体信用生命保険に加入していれば、ローンを契約したお父さんがこの世を去っても返済は免除となるので、残された家族は安心です。
つまり、住宅ローンは生命保険の役割もあるわけです。
退職金で一括返済した翌年にお父さんがなくなれば、一括返済は損だということなります。
一方で、お父さんが返済期間の最後まで長生きしたら、一括返済したのは得だったということになります。
このへんは、まさに生命保険の考え方と同じです。
生命保険の考え方を採用した場合、一括返済と残債保有のどちらが得だったのか、神様しか分からない領域なので、あれこれ思案しても始まりません。
ですから、退職金で住宅ローンの一括返済というテーマを整理すると、次のようになると思います。
- 預貯金が数億円ある人は一括返済は不要→ローンを生命保険と捉える
- 預貯金が少ない人は無理に一括返済せず、副収入を見つけて一括返済のタイミングを考える
- 預貯金5000万円ほどの人は一括返済を考える
結局、手元資金の金額によって、一括返済の有無を考えることになります。
私自身、一括返済するべきかどうか、いまだに悩んでいます。
退職金が支払われるまで、まだ時間があるので、じっくり考えようと思います。