参院選で自分の議席を失っても満足な山本太郎氏
全比例候補で最多の99万票超の個人票
ヒーローは大衆の不満と感動から生まれます。
吉本問題でメディアやSNSがお祭り状態だった頃、捨て身を印象付ける人物が登場しました。
「山本太郎としての議席は失ったが、れいわとしては大きく前進した」
参院選の開票を見届けた22日朝の記者会見。れいわ新撰組の山本太郎氏が発したのは、この言葉でした。
山本氏は、比例票を掘り起こすため、自分自身は東京選挙区から比例に転じ、全比例候補のなかで最多の99万票という個人票を集めました。
この個人票が功を奏し、れいわ新撰組は比例区で228万票(4.55%)を獲得。比例で2議席を獲得しました。
当選したのは、優先的に当選する「特定枠」だった2人。筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の舩後靖彦氏(61)と、脳性麻痺という重度障害をもつ木村英子氏(54)でした。
一方、山本太郎氏は落選しました。
しかし、冒頭のように「山本太郎としての議席は失ったが、れいわとしては大きく前進した」と語りました。まさに、捨て身の戦法です。
今後は非議員の立場でれいわの代表を続け、次期衆院選で100人規模の擁立をめざすということです。
もしかしたら、次の衆院選は「山本太郎」が台風の目になるかもしれません。
それは、なぜか?
なぜ、れいわ新撰組はマスメディアの露出が少なかったのか?
れいわ新撰組は今回の参院選でNHKや民放番組でほとんど扱われませんでした。
なぜなら、れいわ新撰組は公職選挙法などに基づく政党要件を満たしていなかったからです。
テレビは放送時間の都合上、政党要件を満たしていない諸派はよほど話題性がない限り、大きく時間を割いて扱いません。
いわば、泡沫的政党のような扱いとなります。
しかし、今回の参院選で4.55%の得票を獲得したため、政党要件を満たす政党となりました。
政党要件 衆参の比例区に候補者を立てられたり、政党交付金を受け取れたりする「政党」になる基準。公職選挙法上は(1)国会議員5人以上(2)直近の衆院選か参院選で2%以上得票する、のいずれかを満たす必要がある。届かないと、衆院選ならブロック定数の2割以上、参院選なら選挙区と比例区で計10人以上立てなければ、比例区に届け出ができない。政党助成法によると、政党交付金を受け取る資格は直近だけでなく、その前の参院選での2%以上得票でも得られる。その場合も国会議員が「1人以上」必要となる。(出典:朝日新聞)
今後の国政選挙では、政党要件を満たした政党として討論番組などにも出演することになります。
これまでマスメディアで露出が少なかった分、むしろ一般視聴者には新鮮に映るかもしれません。
大手メディアで露出が少ないという不利な条件はひとつ解決することができました。
しかし、れいわ新撰組にとって、これはさほど大きな問題ではないのかもしれません。
それはなぜか?
ネット時代の新興メディアを活用する捨て身の政治家
手作り感が奏功?SNSなど新興メディアを活用
れいわ新撰組の躍進は、新興メディア抜きに語ることはできません。
なぜなら、れいわ新撰組は今回の参院選でツイッターやYouTubeを存分に活用した政党だからです。
選挙期間中、「#生きててくれよ」「#奨学金チャラ」など山本太郎氏やれいわ新撰組に関連するツイッターが相次いで投稿され、注目の「トレンドワード」にもランクイン。多くの人がれいわ新撰組に関連する投稿を目にしました。
さらには、YouTubeでは演説中のライブも配信され、テレビ視聴の少ない有権者にもアピールしました。
選挙戦中、多くの政党CMがテレビやネット上で流れましたが、手作り感のある情報は人々を惹きつけるものです。
新聞・テレビ中心の選挙戦は徐々に変化しつつあります。
「参院選を扱うと視聴率が取れない」
テレビ局から、こんな声が出ているというニュースも目にしました。
「視聴率取れない」参院選、TV低調 0分の情報番組も参議院選挙のテレビ報道が低調だ。選挙自体が盛り上がらず、高視聴率を見込めないためと関係者はみるが、そんな常識を覆す現象も起きている。(出典:朝日新聞)
国民がどんなメディアから情報を得るのか?
地殻変動の予兆なのかもしれません。
そんななか、ネット中心の選挙戦は次の衆院選では重要になる可能性があります。
小党分立の保身野党と捨て身の山本太郎
小党分立した野党では自民党に勝てないにもかかわらず、なぜ、大同団結しないのか?
多くの国民が疑問に感じている点です。
野党は大同団結できない理由を理念や政策の違い、選挙区事情などを理由にしますが、賢明なる国民は分かっているはずです。
小党といえども、一度、党首や幹事長など幹部になると、そのポストを手放したくないものです。しかし、合併すると、ポストは2から1に減ります。
ですなら、小政党でも居心地の良い現状維持にしがみついているようにみえるのです。
そんな野党の保身を感じる国民は少なくありません。
まさに企業合併に反対する取締役を想像するのです。
与党ならば、大臣ポストもあるため、配分するポストは豊富です。
しかし、野党は政党の役職か国会副議長、衆参両委員会のポストくらいしかありません。
一方、山本太郎氏は国会議員の職を捨てて政党の票獲得に奮闘しました。
その結果、前述したように陽の当たらない境遇だった他の候補に国会議員の当選を譲り、自分は非国会議員となりました。
しかも、山本氏は野党の大同団結には前向きです。政権を取らなければ、世の中を変えることはできないと考えています。ですから、政権交代を見据えています。
捨て身に共感して国民的な人気がさらに高まれば、山本氏が野党の接着剤になる可能性もあるのです。
れいわ新撰組は第2の日本新党になるのか?
岩盤のような自民党政権を下野させたのは、元熊本県知事の細川護熙氏が1992年5月に設立した日本新党でした。
最初の国政選挙は、結党2ヶ月後の参院選。得票数は361万票(得票率8.05%)で獲得議席は4議席にすぎませんでした。
しかし、翌年1993年の衆院選では35議席を獲得。自民党を割って出た小沢一郎元自民党幹事長と組んで、社会党など他の野党を束ねて細川政権が誕生しました。
日本新党が政権を握ったのは結党から2年後のことですから、大きな流れができると政界の変化は早いものです。
しかも、当時は中選挙区制です。現在は当時と違って小選挙区制。風次第で局面は議席が一変する選挙制度になっています。
れいわ新撰組が第2の日本新党になれるかどうかは、まだ全く未知数ではあります。
山本太郎氏が掲げた消費税廃止など明確なメッセージや社会的弱者を尊重する姿勢に国民が共感するのかどうか?
同じ顔ぶれで活気を欠く国政に国民は飽き飽きしているようにもみえます。
新たな人材の出現で、次の衆院選は波乱の匂いがしてきました。